「スコトーマ」と「コンフォートゾーン」はそれぞれTPIEというセルフコーチングプログラムで利用されている基本的な用語であり、プロのコーチを目指す方はもちろん、自分で自分自身に対してコーチングを行うセルフコーチングを実践するにあたっても正確に把握しておきたい非常に重要な概念です。
特に独学でコーチングについて情報収集をしながらプロのコーチへコーチングの依頼を検討していたり、自身の自己変革のためにアファメーションの実践に興味を持ち、TPIEについて調べている方にとって、間違った理解は依頼するコーチを選ぶ際も独学でアファメーションを実践している過程でも、結果的に自分に対して不利益を被ることに繋がりかねないものです。
本記事では「スコトーマ」と「コンフォートゾーン」の基本的な解説に加えて、コーチングプログラムの中からこの2つを見たとき、自己変革やゴール達成という目的において「どう関係してくるのか」を解説していきます。
「スコトーマ」と「コンフォートゾーン」の基礎知識
「スコトーマ」についての基礎知識
コーチングで利用するスコトーマの意味を一言で表すとしたら「認知的な盲点」の事だと説明することができます。
人間には「自分にとって重要なものだけを見る」という傾向があり、目で見たときに視界に入っていたとしても重要度の低いものは認識せずに見落としてしまうのです。
例えば、歯の詰め物が取れてしまったり、虫歯が痛み出して
「どうしよう、歯医者に行かないと」
と思った途端に自分の職場や自宅付近に意外と多くの歯医者さんがあることに改めて気付くような経験は、歯医者でなくとも良いのですが誰でも経験していると思います。
こういった例が、スコトーマの働きを説明する典型例で、「自分にとっての重要なもの」に合わせて自分の無意識が自動的に情報の取捨選択を行い、その時の目的に合わせて「自分にとって重要なものだけ」を認識させるように働いている事が分かります。
コーチングにおいての関連性で言うと「スコトーマ」はコーチングのルールに則った「ゴール設定」と非常に深く結びつけられて活用されています。
まず、コーチングで設定するゴールには効果を出すために守るべきルールが3つあります。
1つ目が『自分が心から望んでいるやりたいことである』こと、2つ目に『ゴールは複数設定する』こと、そして最後の3つ目が『現状の外側に設定する』こと
この3点がコーチングにおいてゴールを設定する時に効果を出すため、必ず守っている3つのルールです。
この中で特に勘違いしやすいルールに『現状の外側に設定する』という要素があるのですが、「現状の内側と外側の判断基準」や「なぜ外側に設定するのか?」を理解するにあたって、このスコトーマの働きや後述するコンフォートゾーンを把握している事がとても重要になってきます。
コーチングでゴールを設定する時に「現状の内側にゴールを設定してしまう」または「自称コーチ職の方から現状の内側にゴールを設定されてしまった」というのは典型的なコーチングの失敗例で、とても躓きやすい部分です。
まず「現状の内側」と「現状の外側」の判断基準はスコトーマを使って説明すると『現在、認識できていて重要だと分かっているもの』が「現状の内側」であり、『現在、認識できていないが心から欲しいと思っているもの』が「現状の外側」だ、という判断基準になります。
そして、現状の内側にゴールを設定してしまうとコーチングの効果が全く出ない理由を簡単に説明すると「変わる必要がないから」です。
よく解説をする時に紹介する現状の内側のゴールに「今、働いている会社の社長になりたい」というゴール設定がありますが、このゴール設定がなぜコーチングとして問題のあるゴールなのかといえば目標達成のために求められるものが「今の自分から変わる作業」ではなく「今の自分を維持したまま最適化していく作業」が求められるため、といえば分かりやすいでしょうか。
今の環境を最適化することが悪いことだと言うわけではないのですが、そうなると比較的コンサルティングの範囲でありコーチングとは目的が違うと認識してもらえれば良いと思います。
マイケルフェルプスのオリンピックメダル獲得数史上1位や、タイガーウッズの生涯獲得賞金額史上1位など実際にコーチングを受けて飛びぬけた成績を出す方は度々現れますが、こういった成績は「現状の最適化」だけでは常識的に考えて辿り着かないものだというのはそのスポーツに触れていなくとも素人目に見てわかる部分だと思います。
スコトーマの働きは「自分にとって重要なもの」だけを認識することで脳のエネルギー消費を最低限に抑えることができますが、それはゴール設定における「現状の内側、外側」という判断基準でいえば内側のものだけを見て、できる限りエネルギーを消費しない生活を守ることを前提とした働きであり、生命維持や種の保存という生理的な目的のみにおいては望ましいものの、現代社会におけるスポーツやビジネスの現場での自己変革や目標達成においてはかえって悪い影響を与えてしまう事も多くなっています。
現状の内側にゴールを設定するということは今まで以上に現状維持を強く補強する事でありスコトーマはより強く、より狭く認識するものを限定しますが、逆に言えば現状の外側にゴールを設定して正しいコーチングを行うことでスコトーマは今まで目に付いていなかった現状の外にあるであろう情報を無意識に探し始め、視野を広げながら現状の外側にある自分のより望ましい環境を作る手伝いを率先して行ってくれます。
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「コンフォートゾーン」についての基礎知識
コンフォートゾーンもスコトーマと同じく、コーチングの用語というよりは元々心理学会で利用されていた用語だったものをコーチングでも転用するようになった概念で、言葉の通り「その人の持つ快適な領域、環境」を指してコンフォートゾーンと呼んでいます。
コーチングで活用される時の一般的な例で言うとスポーツにおける「ホームとアウェーの違い」を例にすると分かりやすいかと思います。
プロスポーツ選手や、なんらかのスポーツが好きでファンとして活動している方であれば場所の違いによって個々の選手のパフォーマンスにムラが出て試合結果に影響が出ることは常識だと思いますが、こういった働きをコーチングでは「コンフォートゾーン」という言葉を使って解説されます。
スポーツ選手がホームであれば最大限にパフォーマンスを発揮できるものの、アウェーの環境になると本来のパフォーマンスと比べて変化が出てしまうのと同じように、人には「いるだけでリラックスできるような心地の良い場所」と「いるだけで緊張してしまうような精神的に気を張ってしまう場所」があります。
コンフォートゾーンを単体で捉えると「コンフォートゾーンの中は快適で、コンフォートゾーンの外は不快に感じる」というだけですが、当然快適な場所であれば気にならないものの、コンフォートゾーンの外の不快な場所からは無意識に「快適な環境に戻りたい」という生理的な働きが生まれ、その働きが生まれる性質を「ホメオスタシス(恒常性維持機能)」といいます。
「コンフォートゾーン」と「ホメオスタシス」には密接な関係性があり、この2つを一緒に捉えて活用することでコーチングでは自己変革やスムーズなゴールの達成に利用しています。
スコトーマの解説でも「現状の内側、外側」という概念の説明を行いましたが、コンフォートゾーンを使って「現状の内側、外側」を説明するとしたら「コンフォートゾーンの中が現状の内側」「コンフォートゾーンの外が現状の外側」と説明するとわかりやすいでしょうか。
ゴール設定のコーチングにおけるルールでは「現状の外側にゴールを設定する」というのが効果を出すために重要なポイントだと解説しましたが、コンフォートゾーンの説明を踏まえて見ればコーチングにおけるゴール設定には「コンフォートゾーンの外側」に行こうとする意味合いがあることが分かるかと思います。
コンサルティングなどと比べた時のコーチング特有の強みをお伝えした時も「現状の最適化ではなく、今の自分から全く違う状態に変革するような効果がある」のがコーチングであると紹介しましたが、なんの工夫もなく現状の外側に向かおうとする行為はコンフォートゾーンと照らし合わせれば「快適な状態からわざわざ自分にとって不快な場所に行こうとしている」ようなイメージを持たれる方もいると思います。
結論から先に言うとコーチングは生理的なストレスに目をつぶって精神的、肉体的な健康状態を顧みずに実践するようなものではなく、逆にそれとは正反対なアプローチで自然と現状の内側にある壁を壊すことができるというのも特徴的なポイントであり、コンフォートゾーンとホメオスタシスが特に関係している部分となります。
先ほどから説明している部分のおさらいですが、コンフォートゾーンの外側は自分にとって不快感を覚える場所であり、ホメオスタシスは生理的な不快感を解消するため、急にセミナー会場で数万人を前にして喋って欲しいと立たされたら緊張で逃げ出したくなるように、無意識を総動員して全力で心地よい環境に戻ろうとします。
ただ、例えば自分のコンフォートゾーンを自由に操作できるとして、「今のコンフォートゾーン」から「今と全く関係のないコンフォートゾーン」に移してしまったらホメオスタシスの働きはどう働いているでしょうか?
ここがコーチング特有の強みであり、コーチングを実践すると努力せずとも目標達成や自己変革ができると言われている所以です。
コンフォートゾーンを用いて説明をすると、コーチングプログラムの中にある「アファメーション」は自分のマインド上のコンフォートゾーンを現状の外側のゴールへ向けてズラすことのできる技術であり、今の物理的な環境からではなく自分のマインドの部分から先行して自己変革を完了させてしまうことでホメオスタシスが移行したコンフォートゾーンに収まろうとする働きを有効活用し、生理的なストレスに妨害されることなくゴールを達成することができるという強みになっているのです。
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「スコトーマ」を外し「コンフォートゾーン」を自在に移行させる事で現状を超えた自分になれる
TIPEのコーチングプログラムの中から「スコトーマ」と「コンフォートゾーン」を取り上げてコーチングとは何かを説明するとしたら
「スコトーマの働きで見えなくなっている自分が心から望んでいたものを、コーチングのルールに則ったゴール設定をすることで認識できる状態にし、アファメーションやセルフトークのマネジメントを実践する事でコンフォートゾーンをゴールを達成している望ましい所へ移す作業」
と説明できると思います。
人は生理的に現状維持を得意としているため、現状を最適化することについては比較的ストレスが伴わず行動できる反面、現状から外れるための挑戦や前例のないイレギュラーな目標に対して行動することは生理的な働きに逆行した行いになってしまうため、激しいストレスが伴い現実的ではないものでした。
コンサルティングなどと比べた時のコーチング特有の強みは、その垣根を壊して生理的な働きを逆に有効活用し目標達成へ向けたアプローチを行えるという強みです。
前提としてコーチングは「現状の外側に抜け出すような自己変革の伴う目標を達成する」ためのものであり、「現状の最適化で達成できるもの」はコーチングの範疇にないことも解説しましたが、「スコトーマ」や「コンフォートゾーン」という概念はそれぞれ、コーチングを実践するうえで設定したゴールが現状の外にあるかどうか、さらに実践していくうえで自分がゴール達成においてどんな状態にあるかを内省的に判断するためにもとても有効的に活用できる概念であることが分かるかと思います。
「スコトーマ」と「コンフォートゾーン」がTPIEのコーチングプログラムにおいて自己変革やゴール達成にどう関係しているのか、ご理解いただけたでしょうか?
この記事がTPIEを学ぶ方、コーチングやセルフコーチングに興味を持ち情報収集している方にとって有益なものになれば幸いです。