トゥールミンロジックとは|三段論法の真と曖昧、例外への対応力

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トゥールミンロジックは三段論法に代わる現代の論理技術

人に何かを伝えるとき、人になんらかの働きかけをして動かすとき、邪道にも程がある「脅し」や「騙し」のようなものは論外として、最も効果的で誠実な方法が何かと言えば、私は「論理の力」だと思っています。

私にとっては主にライティングの分野で「論理の力」を利用することが多いのですが、コンテンツマーケティング用の記事執筆やセールスレター、ステップメールなどのコピーライティングにまつわるノウハウ記事でも、主張している過程で矛盾が生じていない文章の重要さを説きながら「説得力を上げるライティングテクニック」などと題して「三段論法」の紹介をベースに段階を踏みながら論理的で理解しやすい文章を書くためのアドバイスをしている記事をよく目にします。

ただ、説得力を高めるライティングテクニックとして頻繁に紹介されているこの「三段論法」が、実は1960年代辺りから既に実社会における論理構策の手段として適していないと言われているのはご存知でしょうか。

1960年代、この世の問題や現象を論理的に説明して話し合うのに「三段論法」だけでは成り立たないため、新しい論理技術が必要だと提唱されるようになったのですが、その当時に提唱していたのが「スティーブン・トゥールミン」という分析哲学者であり、三段論法に代わり新たに実践的な論理構策法として生まれたのが「トゥールミンロジック」です。

「トゥールミンロジック」は誕生以降、まずアメリカの競技ディベートの世界で基本技術として採用され、更にアメリカ議会や政治の分野でもディベートの論理として「トゥールミンロジック」が採用されて行きます。

本記事ではそんな「トゥールミンロジック」の基礎的な部分の紹介をする事で現代に通用する論理技術を習得していただき、多くの方々に具体的な活用法を見出していただけるよう解説していきます。

三段論法とトゥールミンロジックの大きな違いは「例外と曖昧」への対応力

トゥールミンロジックの具体的な紹介に入る前に、そもそも「なぜ三段論法が実社会における論理構策の手段として適していないと言われたのか?」にも少し触れておきましょう。

三段論法の紹介で必ずと言っていいほど使われる典型的な例がこちらです。

大前提:全ての人間は死すべきものである。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:ゆえにソクラテスは死すべきものである。

「三段論法」『ウィキペディア日本語版』

三段論法を知っていればこの例の内容も見たことがあるという方がほとんどでしょう。

ここでちょっとした屁理屈まがいの問いかけをしますが「私の飼っているペット(犬)がソクラテスという名前だとしたら」この例の内容がおかしくなってしまうと思いませんか?

小前提に「ソクラテスは人間である。」と書かれていますが、この内容だけでは小前提に書かれているソクラテスが、あの”紀元前に悪妻と暮らしながら哲学者として生活していたソクラテスさん”を指しているとは限りません。

世界中のどこかには多少なりとも自分のペットにソクラテスという名前を付けている方が居ないと限りませんし、これから新しく建つ建築物にソクラテスという名をつける方がいるかもしれませんし、既に建物の名前としてソクラテスという名がつけられた建物がある可能性もあります。自分の扱う楽器にソクラテスと名付ける人がどこかにいる可能性だって僅かながらにでもあるでしょう。

そうなると「ソクラテスは人間ではない場合も稀にある」と言わざるを得ませんし、人間でない以上はソクラテスが死ぬものかどうかも言い切ることができなくなってしまいます。

普通の会話なら「言わなくても大体分かるだろ」で済むことですけどね。笑

ちょっとした会話の中で友人からそんなことを言われたとすれば、ただの屁理屈とでも受け取って終われば良いだけの話ですが、哲学の場合は長い間そうはいかないのが常識でした。

実際にWikipediaの三段論法のページでもこう書かれています。

典型的には、大前提、小前提および結論という3個の命題を取り扱う。これを用いた結論が真であるためには、前提が真であること、および論理の法則(同一律、無矛盾律、排中律、および充足理由律)が守られることが必要とされる。

「三段論法」『ウィキペディア日本語版』

「結論が真であるためには前提が真であること」というのが肝で、ざっくり言うと

「結論が例外なく正しい情報になるためには、大前提も小前提も例外なく正しい情報でないといけない」

というルールを三段論法を扱う全ての人が共有していない限り成立しなくなってしまうのです。

そもそも、紀元前の頃から哲学における「正しい情報」は100%絶対に正しくないといけないという常識が長い間守られていて、そこから「未来永劫100%正しいと言い切れるものは存在しない」という認識が常識になっていく歴史があるのですが、そうなったのは紀元前まで含めた哲学の歴史の中でいうと本当にここ最近の話なので、紀元前に生きていたアリストテレスの三段論法が例外に対応していないとしても不思議ではありません。

逆に紀元前300年代から1960年代辺りまでのざっくり2300年ほどアリストテレスの三段論法がずっと世の中に影響を与えていたと考えると偉大すぎてちょっと恐ろしいくらいです。

こういった事情を踏まえて「正しい情報は100%正しい」という主張ではなく「この主張は一部の例外を除き”これくらい”正しいに違いない」というような、「例外」に対応した上で「主張がどの程度正しいか」「主張や主張を裏付けるための説明にどのくらいの信憑性があるか」など議論の曖昧な面まで含めて評価し、結論付けることができる「トゥールミンロジック」という議論の技法が提唱されました。

少し前置きが長くなりましたが、ここまでを踏まえて実際にトゥールミンロジックの内容を学んでいきましょう。

トゥールミンロジックの3つの基本

トゥールミンロジックの基本は「データ」「ワラント」「クレーム」という3つを利用して論理的な主張を作っていきます。

3つに分けて論理的な主張を作るため三段論法と混同されがちですが、どこに違いがあるのかは上記した通りです。

まずは、「データ」「ワラント」「クレーム」それぞれの言葉の意味を理解していきましょう。

1.【データ】自分の主張が正しい事を裏付ける根拠・証拠を見せる

「データ」は「客観的な証拠資料」のことです。

ビジネスにおける営業や社内会議のプレゼンテーションなどでもそうですが、自分の主張を採用してもらうにあたって自分の主張を採用して行動するべきだと客観的に見て理解してもらうためにはなるべく具体的で信憑性の高い証拠資料を用意している方が論理的で説得力が高く、人を動かしやすい主張や提案になります。

本記事をそのままトゥールミンロジックの形で捉えるなら「現代の論理構策には三段論法よりトゥールミンロジックを採用するべき」という主張に対して「三段論法がこの世の問題や現象を論理的に説明するのに相応しくないというのは1960年代から言われていた事だ」というのがデータとなります。

論理的な主張を作るときにデータの部分で注意すべきポイントは「信憑性と主張との関係の強さ」です。

例えば信憑性の面で言うと総務省統計局のような国家か、それに近い大きな団体が発表している統計データを使うのと、月間1万PV程度の個人ブログで収集した統計データとでは主張するものによりますが扱い方が変わってきます。

日本国民全体の話をしているのに小さな個人ブログでアンケートを用いて収集したデータを出されても主張の裏付けとして機能しないでしょうし、逆に言えばその小さな個人ブログの運営についての話し合いをしているのに統計局のデータを使って日本国民全体を示す証拠を出されても主張を上手に裏付ける事が出来ないケースもあるでしょう。

主張するものに合わせて誰が見ても客観的に強い裏付けになっていると認められるようなデータの選び方が重要です。

2.【ワラント】自分の主張と用意したデータが強く関係している事を保証する

「ワラント」は用意したデータが自分の主張を裏付けるものだと理解してもらうための情報です。

とても噛み砕いた言い方をすれば主張に対する「何で?」をデータと紐付けながら解消する部分と言えます。

本記事の主張に対するワラントを参考までに挙げるとしたら

「三段論法では実際の問題や現象に対して議論する時に曖昧な情報や例外に対応する事が難しい、トゥールミンロジックであればその問題を解消した上で活用できる」

というのがワラントになるでしょう。

例えば定期的な社内会議の場で

「前年と比べて東北支社の売り上げが12%伸びていて、関西支社の売り上げが17%下がっているため、四国支社を撤退させましょう。」

とだけ主張されたら、そのまま言葉だけを受け取ると「何で?」のオンパレードになりますよね。

上記の発言だけを受け取るとデータと自分の主張のみで、その2つを橋渡しするものがありません。

ただ、ここから主張を裏付ける理由として

「もともと四国支社は前から自社の全国平均をほんの少し下回る程度の業績で留まっていて、そのまま長く横ばいが続いていたため撤退の話は定期的に出ていた。」
「関西支社の業績悪化は理由が明確で一時的なもの、四国に勤めている人材を関西支社に異動することで解消させられる見込みが非常に高い。」
「撤退するにあたって会社全体が受ける一時的なダメージも東北支社の業績が好調で、その他の支社を含めさらなる成長も十分見込めるため会社全体で見ればそこまで問題にならない状態。支社撤退を避けて現状維持しながら改善を狙うより、関西の業績悪化が深刻化するリスクの方が高い。」

というような「ワラント」が付け加えられれば「なぜそのデータを持ち出して、その主張をしているのか?」が理解できるようになると思います。

3.【クレーム】データとワラントで紐付けられた真実に最も近付いている自分の主張

「クレーム」は日本だと文句や苦情という意味合いに捉えられがちですが、トゥールミンロジックではシンプルに「主張」の事を指して「クレーム」と呼んでいます。

「クレーム」は単に「主張」そのものを指すものなのでコツや上手な活用法として解説が必要な点があるわけではないのですが、強いて言うなら現代の主張は「真実により近づくためのもの」であり「真実そのもの」を示している訳ではないと意識するのがディベートを代表とした論理力を求められる主張の場において重要な点となります。

競技ディベートの場では肯定派と否定派に分かれて一つの議題でディベートを進めますが、優秀なディベーターであればあるほど肯定か否定かに関わらず自由に主張を切り返し論を張ることができます。

自分の思想に基づいて肯定派は肯定しかできないという訳ではなく、当然否定派も否定しかできないという訳ではありません。

論理的に一つの議題や主張に対して論理の弱い点を観察し、二者が否定と肯定を繰り返しながら論を重ね続けることは、自然と「その問題を解決した方が良いのか」「解決しようとするにしてもどういう手段を取るべきなのか」など具体的で信頼できる多くの信憑性の高い「答え」に近づいていくことを期待できます。

ディベートや論理力などというと、一方的に相手を言い負かして自分の主張を押し通す技術のようにも捉えられがちですが、少しでも多くの方にむしろ真逆の環境を生み出せる技術であることを理解してもらえれば幸いです。

トゥールミンロジックの主張を補う3つの情報

ここまでトゥールミンロジックの基本となる「データ・ワラント・クレーム」の3点を解説してきました。

この3点を意識するだけでも、例えば「自分の感情とクレーム」だけで主張を押し通そうとする人に対して「データとワラントを出してくれ」と指摘しながら、ただの気持ちの伝え合いになってしまってまとまらない会議や相談などを生産的な話し合いの枠に留めて会話を進めていくような活用の仕方が見出せるかと思います。

ただ、トゥールミンロジックを活用してしっかりした論理的な主張を作る際は「データ・ワラント・クレーム」の3点を基本に、加えてそれを補う3つの情報が必要となります。

「データ・ワラント・クレーム」の3点を基本に、合わせて必要な3つの情報が「バッキング・クゥオリフィアー・リザベーション」という情報です。

この3つの情報は自分の主張を完璧なものにするためにも、相手の主張に対して的確な指摘をするためにも重要なものです。

では、それぞれの言葉の意味を把握していきましょう。

1.【バッキング】ワラントの正しさを支持する統計や証言、信憑性を深める情報

「バッキング」はワラントの信憑性を深めるための統計や証言、事例などを指します。

ワラントの解説時に『「ワラント」はデータとクレームを紐付けて、クレームに対する「何で?」を解消する部分だ』と説明しましたが「バッキング」はワラントに紐付けた「ワラント用のデータ」として利用します。

例えば、本記事の主張が

「実際の問題や現象について議論するなら、三段論法ではなくトゥールミンロジックを使うべき」

という主張で、そのワラントが

「三段論法では実際の問題や現象に対して議論する時に曖昧な情報や例外に対応する事が難しい、トゥールミンロジックであればその問題を解消した上で活用できる」

という内容だった時、ワラントを保証するためのデータも併せて用意しておかないと、指摘を受けても切り返せない場合があります。

この場合であれば、例えば否定側から「三段論法であってもトゥールミンロジックと同等に例外と曖昧に対する対応力を備える事ができる」と「ワラントが正しいとは言えないんじゃないか?」という意図の指摘をされ、そのデータを併せて出された場合は、その指摘に勝るような「トゥールミンロジックでなければ相応しくないワラント用のデータ」が必要になってきます。

実際にあったかどうか分からない例にはなりますが、分かりやすい例えを作るなら

「1960年代当時に多くの哲学者が三段論法とトゥールミンロジックどちらがふさわしいか、多くの有識者が実際に話し合った記録があり、その際に同じようなやり取りでトゥールミンロジックを採用する事に決着が付いた事がある」

というような過去の情報があれば「バッキング」としてふさわしいでしょう。

2.【クゥオリフィアー】クレームが定性的もしくは定量的にどの程度まで正しいと主張できるかを示す情報

「クゥオリフィアー」は主張の正しさが「どの程度まで」正しい情報であるかを示すものです。

例えば「若者はちゃんと大学を卒業した上で社会進出するべきだ」という主張をしたとき、概ね「そんなことはない」と否定する人は少ないと思いますが「大学を卒業すること」が100%の答えとも言えませんよね。

大抵の場合はそうだと思いますが、会社を立ち上げてバリバリ働くようなビジネスマンの中には

「社会で成功したいなら大学に行くより、人より少しでも多く働いてビジネスの経験をとにかく沢山増やしていったほうが良い」

と主張する人もいます。

そうなると一つの主張に対して「どれくらい正しいのか?」を明確にするための情報がなければ議論できません。

「どっちも正解だよね。正解じゃない時もあるけど。」

では話し合いにならないのです。

そもそも、自分が正しいと主張する情報が蓋を開けてみたら「50%正しい主張」だったとしたら、そもそも話し合う必要も無いですよね。

逆に天文学的な確率で起こった出来事をもとに「これは100%正しい」と主張する事も議論として良くありません。

主張の中には統計を取ってパーセンテージを明確にできないものもありますが、少なくとも「どのくらい正しいか」は感覚的に把握した上で主張するべきです。

3.【リザベーション】クレームの範疇に収まらない一部の例外がある事を認める情報

トゥールミンロジックのメリットは「曖昧と例外」に対する対応力だと冒頭で解説しましたが「クゥオリフィアー」が曖昧に対する情報だとしたら、「リザベーション」が例外に対応する情報です。

最初の三段論法についての説明で

「アリストテレスが人とは限らない」

という意図の屁理屈を沢山並べましたが、ああいった主張の範疇に収まらない例外事項を先回りして記しておく情報が「リザベーション」になります。

これはただ単に揚げ足を取られないようにするためのものではなく、自分の主張によっては「明らかに例外として扱わなければいけないもの」があると認めた上で主張するものにも用います。

例えを出すとしたら

「北枕で寝ると縁起が悪いからやめた方がいい」

という主張をする時は

「文化的に関係ない人も勿論いるけど」

というリザベーションを入れておかないと主張が不安定になってしまいます。

プリマファシエとは – トゥールミンロジックの上記6つの要素が揃った完璧な主張 –

ここまで紹介してきた「データ・ワラント・クレーム」に加えて「バッキング・クゥオリフィアー・リザベーション」を含めた6つの要素が揃っている主張を「プリマファシエ」と言います。

本記事ではトゥールミンロジックの紹介がてらに、もう一つのテーマとして

「これから、現代の問題や現象に対しては三段論法ではなくトゥールミンロジックを用いて話し合いや主張をしましょう」

という裏テーマを入れつつ、解説してきました。

ここまでご覧になっているのであれば、実際になるべく満遍なくこの6つの情報を入れていくだけでも説得力の高いコンテンツを作れる事がご理解いただけているのだと思います。

本記事をご覧になった方が、ご自身の中で特に説得力が必要な場面ででもトゥールミンロジックを用いて話し合いを円滑に進めていけるようになれば幸いです。

トゥールミンロジックを本格的に学ぶなら必ず買っておきたい参考書籍

ここまでの内容をご覧いただいて トゥールミンロジックや論理の力に興味を持っていただいた方におすすめの本があります。

その本が苫米地英人著「ディベートで超論理思考を手に入れる『超人脳の作り方』」です。

何を隠そう、私がトゥールミンロジックを知ったきっかけがこの本であり、この記事を執筆するにあたって参考にしている本でもあります。

本記事では基本となる6つの要素を個別に解説して、三段論法の違いをお伝えすることをテーマにしていましたが、ここまではまだ序の口で、この本を手に取っていただければもっと奥深く論理的な思考を学ぶことができます。

ディベートや論理的な思考に興味がある方は是非手にとってみて下さいね。

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