認知的不協和と創造的回避のコーチングにおける働きとは

「認知的不協和」と「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」にはそれぞれコーチングで活用される際の共通点があり、どちらも「違和感への対応、活用」のためにコーチングの中で利用されている言葉です。

コーチングに興味を持ち、自分でも活用できるように自ら理論を学ぼうとする人にとって、それぞれのコーチング用語を深く理解することは特に効果的で、正しい理解は勘違いや思い込みからくる悪質なコーチングを生み出さないためにもコーチング学習者にとって必須のものです。

本記事では「認知的不協和」と「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」の基本的な解説に加えて、コーチングプログラムの中からこの2つを見たとき、自己変革やゴール達成という目的において「どう関係してくるのか」を解説していきます。



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2つの言葉を理解するために必要な前提知識「ゲシュタルト」とは

まず、「認知的不協和」と「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」それぞれを解説するために理解していてほしい前提知識として「ゲシュタルト」という言葉があります。

ゲシュタルト崩壊という言葉に馴染みのある方も多いと思いますが、この「ゲシュタルト」という言葉はコーチングで自己変革される事の説明をするにあたって非常に重要な要素で、Wikipediaでは

人間の精神を、部分や要素の集合ではなく、全体性や構造に重点を置いて捉える。この全体性を持ったまとまりのある構造をドイツ語でゲシュタルト(Gestalt :形態)と呼ぶ。

引用:Wikipedia『ゲシュタルト心理学』

と書かれています。

平たく言えば「人が持つ統合的な1人格」のことを「ゲシュタルト」と言えば分かりやすいでしょうか。

コーチングにおいて特に重要な点で言えば、人は潜在的に複数のゲシュタルト(複数の人格)を持つ事が出来るのですが、一般的なCDプレーヤーがアルバムを再生しても1曲ごとにしか曲を再生しないのと同じように

『中に複数のゲシュタルトがあったとしても表に出てこれるのは1つだけ』

という特徴を持っています。

身近な例を挙げるとバイリンガルの方や多重人格者の方が分かりやすいと思います。

身近にバイリンガルの知人が居る方は身に覚えがあると思いますが、バイリンガルの方は普段の日本語で生活している時の人格と、例えば英語で会話している時とでは人格がその言語文化に沿ってガラッと変わります。

これは人の中に「日本語文化で生活している自分」と「英語文化で生活している自分」の2つの人格(ゲシュタルト)があり、カセットテープを交換するように目的に応じてゲシュタルトが切り替わることで印象が変わったように感じています。

多重人格者の方もその働きは同じもので、切り替わった先のゲシュタルトが「自分を維持した別パターン」か「自分を維持していない別パターン」かに違いがあるものです。

バイリンガルと多重人格では一見、「特殊さ」に激しく違いがあるので納得しにくい方もいるかと思いますが、『潜在的に複数のゲシュタルトを持てる』というのはあくまで誰にでも備わっている能力であり、コーチングを施して自己変革されていく過程でも『複数のゲシュタルトを活用する』ことは当たり前に行われています。

コーチング=未来の人格(ゲシュタルトA)を作って今の人格(ゲシュタルトB)と取り替える作業

厳密に言うと、ゲシュタルトに直接働きかけるというよりはコーチングをする事でゲシュタルトに影響が出ててくるのですが、コーチングを始めると「コーチングのルールに則ったゴール(目標)」を設定することでゴールを達成している未来の自分のゲシュタルトを作る事ができます。

ただ、当然ゴール設定をして未来の自分の人格(ゲシュタルトA)ができたとしても、実際に英語圏で生活した経験のある人とTOEICや英検の成績は良くても英語圏で生活したことのない人(生活そのもので英語圏の臨場感を感じたことのない人)とでは根本的なコミュニケーションの取り方に違和感が出てしまうように、未来の自分の人格(ゲシュタルトA)が本当に生々しく「自分に違いない」と確信するまでには行きません。

これは自分の中に存在する複数の人格(ゲシュタルト)の中でも「自分に違いない」と感じるゲシュタルトに優先順位が付いているからです。

最初に説明した通り、人格(ゲシュタルト)は『複数持つことはできるが表に出てこれるのは1つだけ』なので切り替えることはできても、口から日本語と英語が同時に出てこないように複数をまとめて表に出す事はできません。

表に1つの人格(ゲシュタルト)を出すには条件があり、その条件を成立させる鍵が『臨場感』です。

例えば設定したゴールを達成している未来の人格(ゲシュタルトA)と、今の普段通りに生活している人格(ゲシュタルトB)があった時、どちらが生々しく『自分に違いない人格だ』と感じるかと言えば当然、ゲシュタルトBの方が臨場感強く『本来の自分だ』と感じるでしょう。

バイリンガルの方でも2箇所でそれぞれの文化を経験して言葉が扱えるようになった事で臨場感の強いゲシュタルトが2つ存在してはいますが、通訳のような仕事でもしていない限り、そこまで頻繁にゲシュタルトの切り替えはせず、普段生活している地域や文化に合わせたメインのゲシュタルトを表に出して暮らしているはずです。

職場と自宅のように、経験したことのある2つのシチュエーションなら切り替えは容易ですが、ゴール設定で作るような『未来』と『今』のゲシュタルトで比べれば『まだ来ていない未来の人格』と『生々しく実感している臨場感豊かな今の人格』とでゲシュタルトの切り替えをする事になるので、何もしなければ『未来の人格』が『今の人格』に勝って臨場感を感じる事はありません。

もちろん、だからといって

「いくら理想の未来を思い描いてもあなたは今のままで変われませんよ」

と言いたい訳では当然なく、コーチングの技術には『今の人格(ゲシュタルトB)』の臨場感より『未来の人格(ゲシュタルトA)』の臨場感を強く感じる事で

「未来の人格(ゲシュタルトA)でいることが自分にふさわしい!これが本来の自分だ!」

と、自然に確信させることができるという特徴があるのです。

コーチングが効果を発揮した実例では、営業の利益率が最大756倍に成長したり、オリンピックメダル史上獲得数1位の記録を達成したりと、全く前例のない目覚ましい結果が生まれる事も多々ありますが、それは現状に気を取られずに望む未来だけを見据えていることから生まれるもので、今までのものに全く目を向けていないからこそ前例や過去の実績と関係のない結果が現れます。

ただ、『未来の人格(ゲシュタルトA)』の臨場感が『今の人格(ゲシュタルトB)』に打ち勝ってマインドの変革が成功される過程には『今の人格』と『未来の人格』の椅子取りゲームのようなせめぎ合いが生じます。

そして、そういった認知的なギャップから生まれてくる不快感に働きかけるものが認知的不協和です。

「認知的不協和」とは

認知的不協和はWikipediaでの説明を引用すると、こう解説されています。

認知的不協和(にんちてきふきょうわ、英: cognitive dissonance)とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。人はこれを解消するために、自身の態度や行動を変更すると考えられている。

引用:Wikipedia『認知的不協和』

イソップ寓話の「すっぱい葡萄」という物語では、木に実っている美味しそうな葡萄を食べようとするキツネがどうしても自分の力では届かない高さに実っている葡萄に向かって散々手に入れようともがく有名なお話があります。

その話では、もがいた挙句にどうしても自分の力では食べることができなかった悔しさから

「どうせあんな葡萄は酸っぱくてまずいんだ」

と負け惜しみを言い、葡萄を諦めて立ち去ります。

『食べたいのに食べられない』という矛盾した状態に陥った時に、自分で「あんなのきっと美味しくないんだろう」と勝手に結論付ける事で矛盾を解消させるお話です。

有名な物語ですが、コーチングと先ほど説明したゲシュタルトを利用して解説すると自分の設定したゴールが達成できず、目指すことすら諦めてしまった人の典型例にもなっていることがわかります。

「すっぱい葡萄」の話の場合は物理的な問題すぎるので、学生時代の数学の成績で例えてみましょう。

例えば、学生の「A君」がいたとして、A君は小学生の頃、算数が得意でした。

クラスの中でも算数のテスト結果では上位にいることが当たり前でしたし、算数が苦手なクラスメイトに問題の解き方を教えてあげる事で感謝され、尊敬されることも多かったので、自主的にも算数の勉強は楽しんでやっていたし、勉強すればするほど結果に繋がるのが誇らしく良い循環が続いていました。

ただ、中学〜高校と進むに連れて複雑になっていく数学の授業にA君はどうしても内容を理解する速度が遅くなり、次第に日々のテストの点数はクラスの平均点を下回りはじめ、小学校時代と比べた時の劣等感から授業についていこうとすらしなくなってしまいました。

その結果、A君は

「数学なんて社会人になったら使わないよ、小学生の算数まで出来てればそれで十分でしょ」
「学生の頃の勉強なんか今考えたら何の意味もなかったよね、ほとんど使わないじゃん」

と、口にするような大人に育ちました。

社会人になるとよく耳にする言葉ですが、すっぱい葡萄とそっくりな流れですよね。

ちょっとキツイ言い方をすると「使わないのではなく使えないだけ」のはずです。

物事の判断をするとき、社会人になっても算数や数学で学ぶような論理的なものの考え方は使わない機会の方が少ないですし、小学校までの算数を駆使して頭で計算や応用的に論理的な思考をするのと、高校や大学までの数学を応用的に使って計算や論理的な思考をするのとでは1つ1つの物事を判断する処理速度が圧倒的に違ってきます。

コーチングの観点から言えば自分で「学問や数学」についてのゴール設定をしているわけでもなければ気にする必要のない話ですし、ゴール設定するにしても今から勉強すれば良いだけなので些細な事ではありますが

『今の数学ができない人格(ゲシュタルトB)』

と、なにかの影響を受けて想像上生まれた

『数学ができていたはずの自分(ゲシュタルトA)』

が一時的にせめぎ合いを起こし、臨場感の強い『今の人格(ゲシュタルトA)』が普段通りの人格を維持するために『頭の中に一時的に生まれたAと矛盾する人格(ゲシュタルトB)』が消えるよう自身の行動や態度を変更している、と説明できます。

『認知的不協和』の意味はここまで説明した通りで自分の中で矛盾する認知を同時に抱えている状態や、それによる不快感を表す用語です。

そして、Wikipediaにも書いてある通り「矛盾した状態からくる不快感を覚えると自身の行動や態度を変更すると言われている」と書かれていますが、そのなんとしてでも本来の自分を維持し、矛盾を解消しようとする働きが「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」です。



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「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」とは

数学の勉強についていけなくなった「A君」も、美味しい葡萄が食べたかった「キツネ」も数学そのものの価値を否定したり、勝手にあの葡萄は美味しくないと結論付けたりと冷静に見れば普通に考えてそんな訳がないことをクリエイティブに思い付いては自然に納得していますが、こういった認知的な矛盾を解消しようとして無意識に生まれる脳の働きを「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」と言います。

解決することが億劫な問題や自分の都合と関係なく文化的社会的な慣習などでやらなければいけないことがある時など『本音で言えばやりたくないこと』から逃げようとするケースが一番わかりやすいのですが、人は嫌なこと、やりたくないことがあるととてもクリエイティブに『やらなくて良い理由』を思いついて自分を納得させます。

生活の中の身近なケースで言うとサラリーマンの「飲み会文化」で良く創造的回避(クリエイティブアボイダンス)が働くのを目にします。

仕事終わりに付き合いのある会社の人や、自分の会社の親しくもない上司から飲み会に誘われるような経験はサラリーマンをしていると特に多いと思いますが、行きたくもない飲み会に誘われた時に

「なんとか誘いを断れる正当な理由はないだろうか…」

と意識したタイミングで、脳が全力でとにかく納得させられる「行けない理由」を見つけ出し、不快な場に行かなければいけない状態を回避するための行動に出るような事例は誰でも目にしたことがあるのではないでしょうか?

このケースでは、単純にやりたくないことからなんとしてでも逃げ切るために「創造的回避(クリエイティブアボイダンス)」が働いただけですが、この働きは『嫌なこと』に対して働くというより『自分らしくない全てのこと』に対して働くと認識してもらえればコーチングの観点からなぜ重要視しているのかが分かると思います。

ゲシュタルトは1つの統合的な人格と解説し、頭の中で複数持てるその統合的な人格のせめぎ合いが起こる事、ゲシュタルト同士の矛盾からくる不快感を認知的不協和と言うと解説しました。

加えて『創造的回避(クリエイティブアボイダンス)』は『嫌なこと』に対して働くだけではなく『自分らしくないこと全て』に対して働いているのであれば、コーチングをすることで「今の人格(ゲシュタルトB)」からゴールを達成している(ゴールを達成できるような行動規範を持った)「未来の人格(ゲシュタルトA)」に自分の臨場感が勝った場合、「今の人格(ゲシュタルトB)」でいることが認知的な矛盾を引き起こし「認知的不協和」が生まれます。

ここまで読めばもう理解されていると思いますが、「未来の人格(ゲシュタルトA)」から見た「今の人格(ゲシュタルトB)」が作った環境は、行きたくもない飲み会の席と一緒でどうしても自分らしい環境や自分らしい行動に変えなければ気が済まなくなります。

『創造的回避(クリエイティブアボイダンス)』が「嫌なこと」に対して働くというより「自分らしくないこと」に対して働くと認識して欲しいのはこの為で、ゲシュタルトの臨場感を上手にコントロールすることによって、本来は『なんとしてでも今のままで変わらないよう現状維持をしようとする』無意識の働きを『なんとしてでもゴールを達成している本当に自分らしい環境にするため』の力としてひっくり返してしまう事で、自分の無意識を全面的にゴールを達成させるための頼もしい味方として活用する事ができるのです。

沸騰したヤカンに触ると頼まなくても手が離れるように、目の前で風船が割れると勝手に目を瞑ってしまうように、人は意識の力と無意識の力のパワーバランスで言うと無意識の力が自然と優位に働きます。

良い習慣だろうと、悪い習慣だろうと、望みをそのまま叶えてしまう『自分らしさを作る力』

『認知的不協和』と『創造的回避(クリエイティブアボイダンス)』がコーチングにどう関係しているのか、ご理解いただけたでしょうか。

良く私がコーチングを解説する時、コーチングが理想的な効果を発揮している状況を例えて『物語に出てくるランプの魔神のようなもの』と例える事があるのですが、なぜそう例えているのかが良く理解してもらえるかと思います。

コーチングはクライアントが設定したゴールに対してマインド変革の手伝いをし、臨場感が変わっていく事で『ゴールが達成されて当然なゲシュタルト』に変わっていきます。

その時、もちろんクライアントのゴールに対してコーチは内容の部分に一切口を挟まないのでコーチングをした結果、「いい事が起こる」というよりも「望んだ事がそのまま叶う」というのが大前提です。

もし、ここまでの内容を読んだ上で自分のゴールがあまりにもエゴイスティックなものである事に後ろめたさを感じるようであれば『ゴール設定』から改めて考え直してみるのも良いのではないでしょうか。

この記事がTPIEを学ぶ方、コーチングやセルフコーチングに興味を持ち情報収集している方にとって有益なものになれば幸いです。



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